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読めば読むほど、その指摘にいちいちうなずいてしまった。「『編集手帳』の文章術」(文春新書)。長年、読売新聞の1面コラムを書いてきた竹内政明さんが、名文が生まれる裏側を明かしている。その中で「『出入り禁止』の言葉たち」の項目に興味を抱いた。手あかにまみれた言葉や嫌いな言葉、あるいはむしずが走る言い回しが、それに当たると名手は述べている。
▽…と言っても過言ではない=いかめしい大人の言い方を「聞き覚えた」ばかりの小学生が使いそうで、敬遠するとしている。
▽…する機会があった=それが希有(けう)な体験ならまだしも、手順を踏めば新聞記者は名刺一枚でたいがいの人と会える職業である。「自」プラス「大」で「臭」。自分を大きく見せたい心が放つ臭気、話を大きく見せたい思惑が感じられる、と手厳しい。
見透かされるような意見だ。この仕事の端くれの私も運動部時代につたない表現を連発し、当時のデスク(記者の原稿をチェックして、紙面に使えるように改造する人。鬼多し)にこってり絞られた。例えば(1)「野戦病院」(2)「口元を引き締めた」が挙がる。
(1)は、チーム内のけが人続出の例えだ。デスクは「手あかにまみれとる」と一喝。
(2)は体操競技だった。「佐藤選手は口元を引き締め『ミスをしないように心掛けたい』」。デスク「おまえ、口元を引き締めたまま、しゃべってみろ。無理ばい。フンガフンガじゃ。それか佐藤選手は腹話術師か。E難度ったい」
(1)はベタベタと指紋と手あかにまみれ、(2)はよく考えればできない芸当。読者に失礼である。こうした手抜き、安っぽい表現に当時のデスクは鬼となったのだと思う。
竹内さんの「出入り禁止」用語の中で、最も突き刺さったのが「絆」である。今回の豪雨被害をはじめ、列島が災害に見舞われている。東日本大震災がきっかけで竹内さんは絆を「出禁」にした。「世間の差し伸べる支援の手に真心やぬくもりを感じた被災者が使う」言葉とし、「差し伸べる側が神輿(みこし)に載せてかついで回る言葉ではない」。
確かに「絆を強めよう」とか「元気を与えたい」と、被災していない側が発したのを記すのは、はばかられる。被災者の心に寄り添いたい思いは十分わかる。が、それを受け取る側はどう感じるのか。
救われた、前を向いたという人もいれば、憤怒する人もいるかもしれない。書き手は最大限、神経を研ぎ澄ませなければならない。“E難度”だが、それが要諦だろう。 (くらし文化部編集委員)
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July 10, 2020 at 07:03PM
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手あかにまみれては… 山上武雄 - 西日本新聞
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