皮ごとすり下ろして口に入れると、鼻に抜けるような辛みを感じる。その感覚はわさびにも似ているが、味は確かに大根だ。
「おでんに入れるような普通の大根ではありません。新しい香辛野菜です」
野生の大根を品種改良し、「出雲おろち大根」を開発した島根大の小林伸雄教授(53)は話す。
植物育種が専門の小林教授が、宍道湖岸や島根半島沿岸に自生するハマダイコンに出会ったのは2003年に同大に着任してすぐのこと。出雲地域で食べられてきた野生の大根を、「島根の野菜」として改良できたら面白いと、学生と一緒に研究を始めた。
目指したのは、辛みがより強く、太く、味が落ちる開花の時期を遅らせることの3点。野生のハマダイコンから種を採って育て、目標に近いものを選抜し、また種を採る。辛みをはかるため、一つずつ食べて確かめた。4~5年繰り返し、ようやく形がそろうようになった。
今では島根大に登録した県内約20の農家が、計約1ヘクタールで栽培する。そのうちの一軒、島根県出雲市佐田町で大根を栽培する森山泰幹(よしつね)さん(84)と息子の太史(ふとし)さん(55)の畑を訪ねた。
抜きやすいように品種改良された一般的な青首大根と違い、おろち大根の葉は地面に貼りつくように広がり、根の部分もすべて土中に埋まる。
泰幹さんが、くわで土を少し掘り起こしてから、手で大根を抜いてくれた。大きなニンジンのような形で、太いひげ根が力強く伸びる。出雲神話に登場するヤマタノオロチを思わせる見た目だ。
品種改良時、「ひげ根は不要では」との声もあったが、「ビジュアルのインパクトも大事」(小林教授)と、あえて適度についたものを残したという。
100グラムあたり約60円と安くはない。だが、この大根に最初に飛びついたのは、うまい大根おろしを求める手打ちそばの愛好家たちだった。薬味にすれば辛さがそばの甘みを引き立てる。
太史さんが出雲大社近くに構えるそば店「めん房山太(さんた)」では、おろしたてのおろち大根をたっぷりのせたそばを出している。「辛いもの好きの人でも『思ったより辛かった』と言ってくれます。リピート客が多いです」
ひげ根を天ぷらにする料理も生まれた。こちらは甘さと苦み、かんだときのコクがあり、思わずうなるおいしさだった。(榊原織和)
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11月下旬から3月上旬が収穫期。おろすと生成される辛み成分イソチオシアネートは、一般的な大根の3倍以上、免疫機能の維持などに必要なグルタミンも5倍含む。島根県内のスーパーマーケットや産直市場で購入できる。毎年夏には島根大が家庭栽培用に種を販売している。
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