感染者急増の新型コロナウイルスへの不安で、すっかり落ち込んでいる方もおられよう。だが最新の数字に向き合う筆者には、いつまでも土砂降りの雨が続くとは思えない。地域エコノミスト・藻谷浩介さんの考察です。【毎日新聞経済プレミア】 ◇新規陽性判明者数と死亡者数の関係 そもそもの疑問は、「6月下旬からの陽性判明者再増加にもかかわらず、なぜ7月半ばを過ぎても日本の死者数は増えないのか」ということだった。そのうちに、同じ事態は日本以外でも起きていると気付いたのである。 図の四つのグラフはいずれも、3月以降の毎日の、新規陽性判明者数を赤線で、死亡者数を青線で示している。前後7日間の移動平均とすることで細かい変動を消し、かつ4月ごろの最初のピークの最高点が同じ高さになるように、左右の軸のスケールを調整している。 まずは左上の日本を見ていただきたい。6月半ばまでは赤線と青線が、2週間程度ずれつつ連動していた。しかし7月に入ると、毎日の新規陽性判明者数が4月のピーク時をはるかに上回ったのに、死者数がほとんど増えていない。 「7月になってからの感染者は若者が大半だから」という説明も聞く。確かに6月末までの死亡者969人の年齢別内訳をみると、84%が70代以上で、40代以下は2%(累計19人)に過ぎない。3~4月と違って、高齢者介護施設や高齢入院者の多い病院などでは用心が進み、新たなクラスター発生も少ない。だが理由はそれだけなのか? 厚生労働省のホームページからは、累計3万人超の陽性判明者それぞれの年齢や陽性判明日、発症日などを記載したファイルがダウンロードできる。70代以上の陽性判明者を、発症日(無症状などで発症日が不明な場合には陽性判明日)別にカウントして作成したのが、2番目のグラフだ。 データの制約上、青線(死亡者数)は60代以下も含んだままだが、70代以上に限定した赤線と、もともと大多数が70代以上の青線との間には、5月までは極めて明確な連動が確認できた。だが7月に入ると、そうした連動はやはり消滅している。現時点でわかるのはここまでだが、もう半月ほどデータが蓄積されれば、この傾向はさらに確かなものだと判明するかもしれない。 ◇世界で見られる同じ状況 新型コロナウイルス感染症の死亡率は、30代以下はもともと0.1%未満で、40代が0.5%、50代が1.1%、60代が5.0%、70代は14.8%、80代以上では29.3%と、年齢に応じて高まる(6月末までの死亡者969人に関する厚生労働省の試算)。だが二つ目の図の数字は、7月以降は70代以上の死亡率も下がっていることを強く示唆する。医療機関側のノウハウの進化か、個人の免疫力向上か、ウイルスの変異か、理由は筆者には特定できないが。 「いいかげんな推測をするな」と言われそうだ。しかし、日本で見られるような新規陽性判明者数と死亡者数のずれは、実は世界中で起きている。下半分の二つのグラフにあるように、米国の場合6月中旬以降、全世界では4月下旬以降、日々の新規陽性判明者は増えているのに死亡者数は横ばい傾向だ。 スペースの関係で図をお見せできないが、ブラジルでも6月以降の毎日の死亡者数は1000人超で横ばいだ。感染拡大を放置する戦略を取ったスウェーデンでは、日々の新規陽性判明者数も7月に入ってからピーク時の4分の1程度にまで急減しているが、日々の死者数は早くも4月中旬をピークに5分の1以下に下がっている。また、世界で最も豊かな国と言われるルクセンブルクのグラフを作成すると、日本と瓜二つだ。 なかにはイスラエルや豪州のビクトリア州、東欧のセルビアのように、感染再拡大に連動して死者が再増加している例もある。だが世界の多くの場所で、このウイルスの死亡率(年代区分なし)の低下が、数字で検証できる。 ◇中国の成功と残された課題 中国人留学生などと話をすると、ウイルスを早期に抑え込んだ自国に対し、誇りや自信を高めているのがわかる。「秩序正しいはずの日本人が、なぜ“夜の街”からの感染再拡大を止められなかったのですか」と聞かれたりする。だがその中国は今回、日本のような経験は蓄積できていない。政府の強制力ではなく各自の自制と清潔観念を武器に、風邪がそうであるようにこのウイルスとも、用心しつつ共存する道に向けて進んでいるという経験を。 今後の中国に海外などからウイルスが再上陸した際には、過去に成功した厳格なロックダウンを繰り返して対処せざるを得ないが、それには膨大な経済的・社会的損失が伴う。それは今回ウイルスの早期制圧に成功した国すべてに共通の悩みでもある。 それに対して日本の場合、煮え切らない対応が続く中でもPCR検査数は少しずつ増え、隠れていた感染者をあぶり出すなど“カイゼン”が行われている。陽性と判明すれば気付かずに感染させる危険は減る。安全と経済をどう折り合わせるか、日本的な“すり合わせ”も進んでいくだろう。その結果たとえば、「マスク無しで会話をしつつ至近距離で会食や飲酒をすることは、感染拡大中の地域では避ける」といった、より的確な自主基準が普及していくのではないか。 7月に入って70代の感染者数増加が、他年代より少ないのも、会食回避などの自主的な行動が功を奏した面もあるはずだ。そうしたコスパの良い「行動変容」が成り立った先には、海外との交流再開・拡大も、より自信を持って行えるようになる。 ◇「ウィズコロナ」とは何かを探る 「新型コロナの地政学」は、はからずも日本社会の、独特な“無手勝流”の強さを浮かび上がらせた。少々ポイントは外れているが、皆が懸命に対応に当たることで、なんとか状況に適応していくという力だ。逆に鮮やかに統制をかけすぎて、緩める加減のわからない状況になってしまった中国、統制が利かない米国、日本同様にウイルスとの共存に向かってはいるがその過程での人命の犠牲が大きすぎた欧州の、それぞれの個性と問題点も見えてきた。 筆者は今後も当面、分析を続け、ウイルスとともに生きる「ウィズコロナ」の時代とはどのようなものか探っていくつもりだ。秋以降の世界では、どのような構図が立ち上がってくるのか。半歩先を読む訓練を積めることは、コロナ禍の時代に生きることのせめてものプラス面である。
"確かに" - Google ニュース
August 09, 2020 at 05:30PM
https://ift.tt/2XJNUQ9
「共存に向かうのか? コロナと人間」藻谷氏の考察(毎日新聞) - Yahoo!ニュース
"確かに" - Google ニュース
https://ift.tt/2UI1i6X
Shoes Man Tutorial
Pos News Update
Meme Update
Korean Entertainment News
Japan News Update
No comments:
Post a Comment