クラウドファンディングサイト「Makuake」(マクアケ)は2022年3月1日、プラットフォーム上に掲載するプロジェクトの考え方と基準についての「Makuake基本方針」を公に発表した。
その背景には、サポーターや消費者から寄せられた不満や疑問の声があったという。なかでも、その声が目立っていたのが、超音波食洗機「The Washer Pro(ザ・ウォッシャー・プロ)」だ。
すでに終了したプロジェクトで、3億6000万円近い資金を集め、テレビ番組に取り上げられるなど大きな話題になっていた製品だ。その一方で、「優良誤認ではないか」(実際よりも優れていると偽ったり、競合よりも優れているように偽って宣伝する行為)や「怪しい」と疑問視する声が上がり、その反応もまた大きくなっていった。
同プロジェクトは何が問題だったのか。これらの課題に対して、マクアケはどう対処するのか。
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「10年間の集大成」誤解を招いた告知文
次世代の超音波食洗機というキャッチコピーが書かれた「ザ・ウォッシャー・プロ」は、自宅のシンクや洗い桶に水をためて、パワフルな超音波により最短30秒で食器類を洗浄できるのが特徴だ。一般的な食洗機での洗浄が推奨されていないフライパンや鍋から、野菜や海鮮、換気扇などの家電部品まで、幅広く洗浄できるということで、話題を呼んだ。
そんななか、プロジェクトページに書かれていた以下の文章に対して、疑問視する声があがった。
『「The Washer Pro」は弊社と超音波技術に特化したテクノロジー会社と手を組んで、1.6億円の研究費をかけて6回モデルチェンジしてきました。10年間試行錯誤を経た集大成ともいえるBDPシリーズ最高峰の機種です』(「ザ・ウォッシャー・プロ」のプロジェクトのページから引用)
弊社とは、同プロジェクトの実行者である「Brand Design Plus(ブランド・デザイン・プラス)」(以下、ブランド社)を指す。この文章は日本語にやや違和感があるが、素直に理解すると、ブランド社とテクノロジー会社が、10年の歳月と1億6000万円の研究費をかけて「ザ・ウォッシャー・プロ」を共同開発したのだと受け取れる。
プロジェクトページには上記の写真が掲載されており、第1代から6代までを2社で共同開発し、今回のプロジェクトで発売される新製品は、その集大成であると理解できる。しかし、実際は違った。
初代から4代までの超音波食洗機を開発したのは、文中で「テクノロジー会社」と書かれている企業だった。ブランド社は5代から開発に参入しており、日本市場での発売にあたって、タッチパネルのデザイン、内蔵基板・電圧・電流の調整、検品、電気用品安全法や電波法の認定の取得などを行ったという。これは、ブランド社自身が2月2日の活動レポートで発表したことだ。
SNSなどの情報を参考に調べたところ、この「テクノロジー会社」とは中国企業のようで、ある企業のWebサイトに、ロゴを除きデザインが似通った超音波食洗機が販売されていた。これについてブランド社に尋ねたところ、以下の返答だった。
「共同開発した企業名は非公開としております。パワー、本体の大きさ、音量、パネル、対応する食器、など色んな面で弊社の商品とは違う商品です。個人向け(B2C)商品か、企業向け(B2B)商品かの違いもあります。中国市場で販売することを弊社として何か言える立場ではないので対処はしておりません」
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マクアケの担当者に確認
マクアケの担当者に確認したところ、同製品の製法は「OEM生産」となるそうだ。この場合、ブランド社が委託先企業に対して、自社ブランド製品の製造を委託。委託先企業が自社の技術などを使って製造した製品をブランド社に納品。ブランド社が自社ブランドの製品として販売する流れだ。
上記を踏まえると、プロジェクトページ内の開発背景は誤解を生む可能性が大きく、5代から開発に参入したにもかかわらず、「BDP(ブランド・デザイン・プラス)シリーズ最高峰の機種」と書かれている。これらは、誇大表現や優良誤認にあたるのではないか。それが、複数のサポーターや消費者が指摘したポイントの1つだった。
これらの指摘を受けて、ブランド社は1月14日に以下のように文言を訂正した。
『「The Washer Pro」は超音波技術に特化したテクノロジー会社とデザインに強みを持つ弊社が協力し、試行錯誤を経たBDPシリーズ最高峰の機種です。超音波食洗器の始まりからすると1.6億円の研究費がかけられ、6回のモデルチェンジをした10年間の集大成です』(「ザ・ウォッシャー・プロ」のプロジェクトページから引用)
しかし、ここでも「BDPシリーズ最高峰の機種」という言葉はそのまま残り、5代から開発に本格参入した旨や5代と6代の違いの詳細も書かれていない。もやもやが残るというのが正直なところかもしれない。
案の定、ネット上で疑問や懸念の声は収まることはなく、結果的にブランド社は、2月2日に「本プロジェクトに対する補足とお詫び」と題した活動レポートを掲載。商品のオリジナル性に関する表現が不十分だったと謝罪したうえで、上述した開発経緯などを詳しく説明し、サポーターからの質問についても個別に回答をしている。
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中国ECで類似品が激安で販売されている
もう1つ、サポーターや消費者が指摘していたポイントが、中国のECサイトで類似品が激安価格で販売されていることだった。
「AliExpress」(アリエクスプレス)という中国のECサイトでは、「ザ・ウォッシャー・プロ」と同スペック、ほぼ同じデザインの海外仕様版が、3月中旬時点で189.54ドル(約2万2000円)で販売されている(送料別)。「ザ・ウォッシャー・プロ」は、もっとも安いリターンでも42%オフの5万7700円(定価9万9600円)となり、定価で比較するとアリエクスプレスの価格は4分の1以下となる。
サポーターからは、この価格差について「納得感がほしい」「高いと感じる」という声や、「ブランド社のオリジナルブランド製品の類似品が、中国のECサイトで販売されている背景を知りたい」という質問があがっていた。
これについて、ブランド社は活動レポートやサポーターへの個別回答を通して、以下のように説明している(一部抜粋)。
『日本オリジナル版を開発・製造するに際し、PSE認証や電波法の型式指定番号を取得する上で必要となる試験データ費用、各種資料作成費用、プラットフォームへの販促費、消費税、共同開発元への技術使用料及び諸経費といった費用がかかっており、海外類似製品と比べますと販売開始までに要した費用が大きく異なりますため、最終の販売価格に差異が生じておりますこと、ご理解賜れますと幸いです』
『「The Washer Pro」はプロジェクト期間中Makuake様でしかご購入できません。Makuake様以外で販売されている模倣品は弊社とは一切関係がございません』
『海外サイトで見受けられる製品は、電圧や電流が異なるため、国内で直接使用できません。また、電気用品安全法や電波法の認証されておりません。ですので、弊社の製品と、全くの別物と認識していただければ幸いです』
上記の回答でブランド社が指摘しているとおり、海外仕様の製品は、電波法の観点で日本国内で使用すると違反になる可能性があるそうだ。
一部のサポーターからは、「ザ・ウォッシャー・プロ」のプロジェクトが開始される以前から、中国のECサイト上で類似品が販売されていたことを指摘する声もあった。これについてブランド社に尋ねたところ、以下の回答だった。
「開発パートナーである企業により、中国のECサイト『Taobao』で、当社がオリジナル性を加える前のものが出品されていたことを把握しています。しかし、中国市場で製造パートナー企業が販売することを弊社として何か言える立場ではないので対処はしていません」
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まとめると、何が問題だったのか
筆者は22年1月、ブランド社の広報担当者に開発経緯などを取材し、記事を掲載している(関連記事)。取材では「1年間かけて2社で共同開発した」との話があったが、後に「開発背景にまつわる内容を削除してほしい」といった依頼があった(その依頼には応じていない)。
「ザ・ウォッシャー・プロ」という製品は非常にユニークであり、これまでの食洗機の概念を変えるほどインパクトがあった。だからこそ取材を通して、同製品が生まれた背景や機能性を紹介したいと考えたのだが、ブランド社の広報担当者が開発背景を明かしたくない姿勢を見せたことに違和感があった。
さらに調べていくと、上述したトラブルが起きていることが分かってきた。今回、何が問題だったのかというと、「誤解を与えるような表現をしたこと」と「リスクへの配慮が欠けていたこと」といえるのではないか。
マクアケの担当者は、今回のトラブルについて以下のように話した。
「今回のプロジェクトにおいて、消費者の方が知りたい訴求ポイントが明確になっていなかった点が課題だったと捉えています。弊社としても、プロジェクト開始後、SNSでの投稿やサポーターの方からのコメントを拝見し、必要な情報を提供するよう実行者さまにうながしておりました。
弊社には、プロジェクト掲載にあたっての明確な社内基準があり、今回のプロジェクトは基準には問題がありませんでした。しかし、実行者に対するプロジェクトページの表現指導には課題があったと反省しています。その対応として、3月1日に掲載基準を公にし、社内体制の強化も図ってまいります」
マクアケでは、19年12月に自社サービスを「クラウドファンディング」ではなく、「アタラシイものや体験の応援購入サービス」と定義し直し、それ以降、自社の発信では「クラウドファンディング」という言葉は使っていないという。
ただし「何をアタラシイと考えるのか」を公にしておらず、SNSなどを通じて「海外製品の輸入販売や海外メーカーへの製造委託(OEM)は、新しい製品といえるのか」という疑問の声が年々高まっていた。さらに、今回の「ザ・ウォッシャー・プロ」などを通して、プロジェクトページの表現における課題にも直面し、掲載基準の発表や体制強化の必要性に迫られたのかもしれない。
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マクアケが公開した「掲載基準」の内容
マクアケは3月1日、プラットフォーム上に掲載するプロジェクトの考え方と基準における「Makuake基本方針」を発表した。
この基本方針の公開にいたった背景としては、「Makuakeの考える『アタラシイ』とは何か、またそれに基づくプロジェクトの掲載基準とは何かということについて方針を示すことが本サービスの理解促進及び、より充実した活用につながると考えた」と話している。
同発表では、以下のとおり、マクアケの掲載基準における3つの指針が示されている。
(1)プロジェクトの要素に「アタラシイ」があること
(2)実行者にとって「挑戦」や「ストーリー」があること
(3)基本条件をクリアしていること
「アタラシイ」については、既存の市場におけるコンセプトや技術、デザインなどの新規性だけではなく、実行者自身や商品、サービスからサポーターが享受する価値に明確な差異があるものも含まれるとのこと。
具体的には、既存商品・サービスと比較して使い勝手を向上させた、素材を変えて環境に配慮した、日本市場に初めて進出を果たしたなど。また、エンターテインメント領域の活動や伝統産業や歴史ある施設・行事など、後世に残すための新しい挑戦もOKとなる。
「応援購入サービス」の特性上、通常のECサービスと異なり、実行者にはサポーターの応援を受けるに値する「挑戦」や「ストーリー」などの訴求ポイントがあるべきだとも言及されている。
最後の「基本条件」については、法令順守など細かい記載があるが、「ザ・ウォッシャー・プロ」で問題視されたポイントの関連箇所のみ抜粋して紹介したい。
今回、サポーターや消費者は「海外製品の輸入販売ではないか」「ブランド社がイチから開発に携わっているのか」といった疑問や不安を抱いていた。結果的に、海外製品の輸入販売ではなく、海外メーカーへの製造委託(OEM)による「自社のオリジナル製品」であり、日本仕様のデザインや内蔵基板に変えるなどの新規性を持つモノだったが、プロジェクトページでは、その事実が正しく伝わらなかった。
こういった課題に対して、マクアケでは「商品が輸入代理商品、及び海外OEM/ODM商品である場合における記載」を実行者にうながすと発表している。担当者は以下のように説明を加えた。
「この点については、今回新たに見直した指針です。輸入代理商品については、21年9月よりページの冒頭部分に正規代理店である旨の記載、海外OEM/ODM商品については、22年2月後半よりプロダクトのオリジナル性や特徴のほか、製造委託製品である旨を記載するよう、運用を徹底しています。また、必要に応じて『製造元の中国メーカーのサイトで、類似品が販売される可能性がある』といったリスクの明記もうながします」
今回の一連のトラブルやマクアケが発表した基本方針を踏まえ、クラウドファンディングの各プロジェクトが健全に運営されることを願いたい。
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