昨年7月の豪雨で氾濫した球磨川の治水対策で注目が集まる遊水地。熊本県阿蘇市には、2012年7月の九州北部豪雨で氾濫した黒川の洪水調節のため、18年6月に暫定運用を始めた県内最大の小倉[おくら]遊水地(88ヘクタール)がある。同じく九州北部豪雨後に整備した同市の手野[ての]遊水地(50ヘクタール)と合わせた調節容量は403万トン。球磨川流域に複数造成する遊水地で国や県が確保を目指す600万トンの3分の2に相当する規模だ。
小倉遊水地は東西1300メートル、南北800メートルを堤防で囲む。洪水調節容量は265万トン。そばを流れる黒川の水位が約4・3メートルに達すると、周りの堤防より1・9メートル低くした「越流堤[えつりゅうてい]」を越えて水が流れ込んでくる。黒川の水を一時的にため込みピーク流量を減らす施設だ。事業費は約69億円。
小倉遊水地の特徴は、県が土地を買収して低く掘り込んだ23ヘクタールの「初期湛水[たんすい]地」(容量95万トン)と、周りの水田を堤防で囲んだ65ヘクタールの「二次湛水地」(同170万トン)からなる点だ。二次湛水地の所有者は農家で、「10年に1度」の雨で初期湛水地が満水になった時だけ遊水地として利用する「地役権[ちえきけん]」を県が設定。農家は従来通りコメや麦を作り続けている。運用開始後、19年6月と昨年7月の2回、初期湛水地に水が流れ込んだが、二次湛水地には至らなかった。
「最初は葛藤もあったけど、下流の浸水被害を考えるとねえ」
阿蘇市小倉の農業、後藤光昭さん(73)が二次湛水地にある自分の田んぼを見つめた。
後藤さんは初期湛水地に指定された80アールの水田の買収に応じ、二次湛水地の65アールで地役権契約を結んだ。先祖代々引き継いだ農地を失うことやコメの品質が低下しないか、景観が損なわれないかなど不安もあったという。
ただ、九州北部豪雨での浸水被害を考えると承諾せざるを得なかった。「人命や住宅などの財産が第一。近ごろは雨の降り方が異常で完全に安心はできないが、被害を軽減するにはみんなで負担を分担しないとね」
小倉の遊水地計画は九州北部豪雨の前からあった。だが、事業が本格的に進みだしたのは豪雨後だ。県河川課は「豪雨で大きな被害が出たことが遊水地整備を加速させた面は確かにある」と話した。(東誉晃、太路秀紀)
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