PROMOTION 2020.04.20 MON 10:00
「大企業に眠る技術が、世界の社会課題を解決するかもしれない」。常々そう語り、行動に移している丸 幸弘(リバネス代表取締役グループCEO)。そんな丸にインスピレーションを与えたのは、三菱電機のふたりの社員だったという。大企業とヴェンチャー、あるいは研究者とクエスチョン。隔たりを結ぶべく奔走する山中聡と峯藤健司は、企業と社会にいかなる価値をもたらそうとしているのか。
TEXT BY TOMONARI COTANI
PHOTOGRAPHS BY KOUTAROU WASHIZAKI
写真左から、丸幸弘(リバネス代表取締役グループCEO)、峯藤健司(三菱電機 未来イノベーションセンター マネージャー)、山中聡(三菱電機 未来イノベーションセンター グループマネージャー)。鼎談は、墨田区にあるリアルテック系ヴェンチャーのインキュベーション施設「センターオブガレージ」で行われた。
コミュニケーターは研究者のお仕事!?
丸 おふたりとの出会いはシンガポールでしたよね。リバネスが主催したビジネス視察ツアーにご参加いただいたタイミングでした。5年くらい前でしたっけ?
山中 いえいえ、2017年です(笑)
丸 たった3年前!? 道中のバスの中でいろいろ語り合い、そこから、研究所の技術の新規用途をヴェンチャー、研究機関、町工場などと一緒に考案する「TECH PUSH」というプログラムが生まれました。その後もいろいろな取り組みをご一緒させていただいてきたので、もっと長いことお付き合いしている感覚でした。
リバネスはずっと、大企業のなかに眠っている研究資産を世界につなげ、世界の課題を解決し、結果としてビジネスが生まれていく……という活動に力を入れているのですが、うまくいかないケースもままありました。その理由が、大企業の中に「研究者と課題を結びつけるコミュニケーターがいないことだ」ということに、おふたりと出会って気づかされたんです。
山中さんも峯藤さんも、社内と社外をブリッジさせるコミュニケーターとして活動されていますが、元々は研究者というキャリアをおもちですよね。文系理系という分け方はあまり好きではありませんが、ときどき文系のビジネスに寄り過ぎている経営企画の方には、研究のワクワク感がすぐには伝わらないと感じることがあります。例えば、「その研究いくらになるの」といきなり聞かれたり(笑)。その点、おふたりとはそうした齟齬が一切なかったので、いきなり深いところまで話が弾みました。
丸 幸弘|YUKIHIRO MARU
リバネス代表取締役グループCEO。博士(農学)。大学院在学中にリバネスを設立。最先端科学実験教室をビジネス化。世界各地のディープテックを発掘して地球規模の課題解決に取り組む。ユーグレナなどテックベンチャーの立ち上げに携わる。
峯藤 おそらく文系の方とは、好奇心と探究心のベクトルが違うと思います。
丸 そうなんです。おふたりはちゃんとワクワクしているのがいいんですよ! 「人類ってさ」というテンションでも話ができるので、すごくラクなんです(笑)。研究を経験した人がコミュニケーターというポジションに来るのは、大企業のアセットを社内で再評価するという意味でも、そのアセットを社外の課題に向けて活用するという意味でも、とてもいい気がします。
リバネスはずっと、そうした活動を外部に対してやってきましたが、企業の内部にもコミュニケーター的な存在がいないといけないんだなと。
山中 リバネスはポスドクの課題を知っている一方で、ぼくらは大企業にいる研究者の悩みを知っているといえます。「こんな技術をつくったけれど、事業部に採用されない」といった悩みを、なんとかしたいという思いが強いんです。
山中 聡|SATOSHI YAMANAKA
三菱電機株式会社 未来イノベーションセンター グループマネージャー。1998年三菱電機株式会社入社。入社後、液晶TVや三菱電機を代表するオーロラビジョンに搭載される画像処理LSIの開発に従事。2015年より現職、ヴェンチャー企業とのオープンイノヴェイションを推進。コミュニケーターとして、ヴェンチャー企業とのマッチングによる既存事業の強化や企業内の知財を活用した事業機会の創出に注力。
丸 自分のナレッジが採用されないという課題は、確かに似ていますね。大企業の研究者は、ヘタな大学より多いですからね。三菱電機にはどれくらい在籍しているんですか?
峯藤 およそ2000人です。
丸 2000人のマスターやドクターがいるって、もはや国ですよ(笑)。
峯藤 実際に研究者たちは結局、研究立案するときに「その研究、いくらの事業になるんですか?」と最初に聞かれるわけです。企業なので当然という認識がありつつも、正直、研究者をそうした作業と向き合わせてはいけないと思うんです。そのサポートをするのが経営企画だと思います。経営企画の仕事は、好奇心と探究心を持った人をどれだけ支援できるかだと思っています。ぼくらが所属する未来イノベーションセンターは未来をデザインする、つまり研究者でありながら経営企画に近しい仕事をしています。だから、社内のブリッジが円滑にできるのかもしれません。
峯藤健司|KENJI MINEFUJI
三菱電機株式会社 未来イノベーションセンター マネージャー。2011年三菱電機株式会社入社。情報技術総合研究所にて光通信技術の研究開発に従事。その後、同所の研究開発戦略策定、資源配分と実行支援を担当。現在はヴェンチャー企業とのオープンイノヴェイションを起点とした新規事業開発と既存事業強化の推進を担う。17年より現職。
大企業が指標にすべきは「マチュアグロース」
丸 日本の人口はざっくり1億人。世界で見れば1/70です。一方、ASEANの人口はおよそ7億人。つまりは1/10。「そこまでがマーケットだよ」って概念を広げていかないと、日本は沈没していきます。シュリンク市場なわけですから。だったら「わたしたちはアジアの一員」と認識し、東南アジアに入れてもらったほうがいいと、ぼくは思っています。
山中 その「入れてもらったほうが」という感覚を、なかなか日本の大企業は身につけられません。1/70より1/10のほうがいいに決まっているので、どうやって社内の認識を変えていくかは、ぼくたちの課題だと思っています。
丸 日本の人口は減っていますが、「自分たちは東南アジアのメンバーなんだ」とイメージすると、人口は増えていることになる。「人口が増えているところにぼくらはいるんだ」といったときのアクティヴな活動量と、「人口が減っているところにいるんだ」という感覚のときのアクティヴィティって、だいぶ違うと思います。
峯藤 確かに次の10年は、東南アジアとの接続を意識づけることが、日本の会社にとって非常に大切なことだと思います。「自分たちは人口が増えている場所にいるんだ」「課題がいっぱいあるから、解決しないといけないんだ」というミッションに突き動かされる人を増やすことで、結果として景気もよくなるし、いろいろなことが改善できるのではないかと思います。
実際、「失われた30年」と言われ続けたことで、いまやそれに抗う思考が日本経済を覆っていますが、高度成長期のときは、みんな「明日はもっとよくなる」と上しか見ていなかっと思います。それが、いま東南アジアで起こっているわけですから。
「領土が広がる」と捉えると、侵攻のイメージにつながってしまいがちですが、自分たちの生活圏や文化が、アジアのなかにいてもいいんだと認めてもらうことが大事だと思います。認めさせるのではなく、お互い手を取り合ってというところがポイントかなと。
丸 そうなんです。ぼくは、テクノロジーなんてただで貸してやれと思っています。なんならあげちゃえと。ただし、どれだけ幸せになったかは教えてくれと。教えてもらったものが通貨なんだと。「ありがとう! このテクノロジーのおかげで逸材を育てられたし、社会貢献ができたよ」と。
そうした活動は、通常の資本主義的なモノサシだとなかなか難しい。「それ、3年で利益が出るの?」と言われるわけですから。でもこれからは、GDPグロースではなくマチュアグロースだと思っています。相手が幸せになることで、ぼくらの心が成熟する。売り上げではなく幸福度を上げていこうという概念がマチュアグロースです。
だから日本は、東南アジアの課題をたくさんもらえばいいと思っています。東南アジアの課題を思いっきり見つけて、いまもっているテクノロジーで思いっきり解決すればいいわけです。それが、心のグロースにつながりますよと。そして、やがて東南アジア社会が成熟し始めたときに還元が起こります。それは10年以上かかるでしょう。でもいま始めたら、心が豊かになりつつ、かつ、10年後にはリターンが入ってくる。長期的だけれど、いま大企業がもたなければならないのが、マチュアグロースという概念だと思います。
山中 20年前には、中国や韓国が日本の技術を漁りに来て、自国に持ち帰るという流れがありました。それに関して日本は、テクノロジーを搾取されたという感覚がすごくあると思います。だからいま丸さんがおっしゃった「自ら与えに行く」という逆の行動は、とてもいいですね。考えてみると、戦後、アメリカが日本に行ったことと似ているかもしれません。
丸 取りに来させるのではなく、出ていって渡すんです。コソコソ取りに来るのではなく、わざわざ渡しにいったら覚えてますから。概念として違います。
峯藤 確かに、いまぼくらが丸さんとやっているプロジェクトは、何なら相手を豊かにしようとは思っていないかもしれません。豊かになってもらいたいのではなく、ぼくらが楽しいし、豊かになるから技術を提供するという感覚はありますね。
求む! 大企業と社会課題をつなぐ、その役職の名前を
山中 実際、いま峯藤くんが言ったリバネスとやっているシンガポールのプロジェクトでいうと、三菱電機として出合ったことのない分野のヴェンチャーと出合うことになりました。研究者にしてみると、お金ではなく、新しいクエスチョンや新しい研究ネタをもらえることがベネフィットなので、研究者たちにしても願ったりだったんです。
いままで気がつかなかったところで課題を発見し、その課題は自分たちには関係ないと思っていたけれど、よくよく考えてみると、三菱電機にフィードバックできる課題として昇華できたんです。
丸 バイオ系のヴェンチャーでしたよね。
峯藤 三菱電機とバイオって、一見接点がないじゃないですか。でも一度取り組んでみると、すごい発見がありました。そこが知見化され、要素技術が三菱電機にフィードバックできるということが見えている。それこそ、知識が製造されたんです。
山中 新しいイシューとの出合いをどう起こしていくかは、常に課題です。ぼくらは思い切って飛び込み、やってみたからこそわかりましたが、たいていそこで躊躇するんです。
峯藤 みんな、最初の一歩をなかなか踏み出せない。行ったことがない土地に、まず行かなければならないわけですから。ぼくらはコミュニケーターなので入り込んでいけるけれど、たいていの研究者はそれが苦手です。だからぼくらは添乗員となって、研究者がまったく未知の世界へ飛び立つための手助けをする必要があるんです。
丸 出合うだけではダメですからね。自らナレッジを取りに行こうとしないで、与えられるものだと思っているとアウトです。でも行ってみて、自分でナレッジを掘っていくと、何かに出合うんです。それがとてもおもしろい。そうなればあとは、自分がもっている知識を使って“製造”を始めるだけです。
でも、研究者が新たな知識製造にまでたどり着くにはハードルがある。それを、コミュニケーターであるおふたりが解消し、その後、研究者がアグレッシヴに知識を取りに来た。探究力がない研究者が行っても、おそらく何も起こらなかったと思います。
峯藤 そうなんです。大事なのは、研究者が好奇心と探究心に集中できる環境だと思います。研究者だけが来てもできないし、コミュニケーターだけが来ても何も起こらない。ぼくらの仕事は、研究者に好奇心と探究心に向き合う環境を用意することで、それが、これからの大企業においては非常に大切なミッションだと考えています。
「好奇心と探究心以外はいらないから来なよ」って言える環境をどれだけつくってあげられるか。「なぜ来たの?」とか「これからどうなるの?」は、ぼくたち企画系の業務です。次世代の経営企画業務って、そういうことだと思います。
丸 コミュニケーターというと簡単な職業に思えてしまうけれど、研究者が前のめりに知識を製造することに集中できるように伴走し、出てきたものを特許にするときも動き、それ以外のところも何でもやらないといけない。そして、社外に広めていくフェーズにおいても必要になってくる。これはもはや、単純にコミュニケーションだけをする仕事ではないですね。
山中さんと峯藤さんの役割がきちんと明文化され、部署として大企業に根付いていくと、日本の経済は大きく変わっていくと思います。たぶん10年後には、オープンイノヴェイションなんて言ってないですよ。当たり前すぎて。そうするためには、「おたくの会社、コミュニケーターは何人いるの? 200人? まあ、そんなもんだよね。200/2000は上等だよね」といったことにする必要があると思います。
峯藤 日本のために、なんて大それたことは考えていないのですが(笑)、ぼくらの根っこにあるのはやはり、研究のためにという思いなんです。自己犠牲の精神ではありませんが、こちらが何かを犠牲にしてでも相手に何かを得てあげたい、という情熱がエンジンになっていることは間違いありません。
山中 近江商人のいう「三方よし」は、普通「自分よし」から考えますが、その点で言うとぼくたちは、確かに「相手よし」から考えているのかもしれません。
丸 これは本気で、コミュニケーターではなく、おふたりの役割に新しい名前を付けなければなりませんね。異なる存在それぞれの特性を分析し、チューニングし、結び合わせるわけだから……例えばキャリブレーターとか(笑)? もしいいネーミングを思いついた読者の方がいたら、『WIRED』編集部までご連絡ください!
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April 19, 2020 at 06:00PM
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